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発売中の「イラストレーション」で3人のクリエーターの皆さんにインタビューをしました。そちらの詳細はまた後日として、今回その中のおひとり師岡とおるさんについて新たに書いた文章を転載しまーす。



このポスターがけっこうウケている。ウケてはいるけど絵を描いたのが誰なのかは、とくに話題になっていない。「楳図かずおが描いたのかな?」って言われてもよさそうだけど、そうじゃないことくらいすぐ分かるのか言われていない。「実際の漫画のワンシーンなのかな?」という話にもならない。描き下しであることが分かるからか。「これってプロの仕事だろうか?」程度の話は出ているのかも知れない。「昭和っぽいなあ」「濃い〜」というのはあったが、出どころがどこなのか作者が誰なのかということは、話題にのぼらないようだ。



とにかく描き手のことはあまり気にされないらしいが、ポスターをしばらく見ていると気がつくことが多い。事件の直後そばにいたであろう人々それぞれの勝手な反応が描かれ、そこに内容らしい内容はないのだが、ふきだし、効果線、ハイコンといった漫画の形式のみがたたみ掛けられて、バン、バン、バンと三コマ連発でいさぎよく終わり、さいごに「みんなの勇気と声で痴漢撲滅」という標語がそらぞらしく響く。とてもその気があるようには思えない。こうした視覚コミュニケーションは、漫画やお笑いが円熟した日本のサブカル風土の中でしか成立しないかも知れない。そう感心すると同時に、漫画の形式だけを抜き出し凝結させる手法に気づかされる。ここにきて師岡とおるの仕事ではないかとの疑いをもつにいたった。



一般的にこれが誰の仕事なのか確かめようとすると、そうとうなエネルギーを使うことになるだろう。まずJR東日本に問い合わせ、あのポスターの描き手が誰なのか聞かねばならない。広報担当にまわされ、外注のデザイン制作会社の連絡先を聞き出し、そこに電話をして初めて知ることができるかも知れないが、でもそうまでして誰が描いたのか知ろうとする人は滅多にいない。いるとすれば熱心なイラストファンか、あるいは同業者ぐらいか。広告系デザイナーでさえ気にしない可能性が高い。しかしポスターに漂うある種の品性を通して、師岡のエスプリを察することはできる。



日本で漫画表現はあまりにも日常的だし、ポスターだけでなく、ほかのさまざまな媒体を席巻してから既に久しい。二次創作にもみんなが慣れている。これほどの漫画先進国だからこその人々の寛容さなのだろう。成熟したサブカル風土を前提にぎりぎり成り立つバランス感覚と客観性と作画技術があって、ようやく品性というものが絵から漂ってくる。そして何よりも大切なのは漫画にたいしてのリスペクトだと、本人も言っている。師岡とおるが到達したのはそういう場所なのだ。



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痴漢撲滅キャンペーンは6月からやってたんですね
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